展示の目玉は両面宿儺
三井記念美術館で開催の特別展「魂を込めた円空仏」。
円空好きゆえ、弾むようなステップで、いそいそ向かったのだった。
今回の目玉といえば...ポスターでも一番大きくレイアウトされている、岐阜県は千光寺からやってきた「両面宿儺」。
指先の爪の彫りがかわいい…(滋賀・千光寺)※本ページ撮影可の像のみ掲載
5世紀頃に現れ、鬼神とも称された異形の人物ながら(『日本書紀』では飛騨の豪族とされる)、地元では千光寺の開山や、龍を討伐したヒーローとの伝承もあって、まさに二面性あり。
最近では、スーパー人気漫画『呪術廻戦』の登場人物としてもおなじみ、ということで、既存の仏像ファン以外の注目(「あの両面宿儺が!」的な)が集まっていたのじゃないかと思われる。
そんな「両面宿儺」も円空の堂々たる大作であり、見応えもあったのだけども、ここでは、個人的にグッときた見どころをつらつらと。
見上げれば木、振り返れば森
展示室3に立つ、2m超の4体の護法神&金剛神を見上げたとき、像というよりもっと根源的な、もっと生々しい存在感があった。プリミティブな、樹木に宿る生命力。
「ああ、これは、木だ…」と。
ふとそこから、展示室の対面奥を振り返ると、並ぶ三十三観音たち。
「…森だ!」と思った。
瞬間、足元から飛騨の深い森が立ち上がる。
展示を観ながら、大きく深呼吸をする。木と森の実在を感じる。
そうだ、『森は生きている』んだった。
三十三観音たちは、それぞれ固有の木肌を持つ。その木肌と円空のふるったノミが作り出した彫り跡の美しさに目を奪われる。
目を凝らすと、森を抱いて重なる山並み、高度を上げて鳥瞰したような幽玄な景色、地図上の等高線のような年輪の模様など、土地のカタチが浮かび上がるようにも思えた。
円空仏を見ると、毎度、仏教に付随する像として存在するよりもっと手前の、祈りや命みたいなものの輪郭を彫り出すための一刻のように思わずにいられない。
持ち帰りたくなるキューティー護法神
次に、心惹かれたのが、入口から近い場所に鎮座している愛染明王。
気合いの入った仕上がりで、後ろから見たシルエットも好ましい。しかも、後ろ姿がちょうど五輪のような形にも見えて、ハッとした。
代表作として知られる柿本人麻呂像の前では、何度か立ち止まって笑顔に。
アコーディオンのような衣の皺の心地よいリズム(歌聖だし!)を追いながら、目線が流れていく。懐の深さを感じさせるスマイルは、観音の化身とされているだけある、などと勝手に納得した。
そして最後に、展示作品の中で「いちばん家に持って帰りたくなったで賞」を渡して表彰したかった像について。それは、展示no.45の護法神※像!君だよ、君!
展示作品の中にも多数あったのだけれど、目尻を下げ、こちらにリラックスを促す姿が、ベストほっこり。手元に置きたくなる、というのも円空仏あるあるだと思う。
※護法神:帝釈天や四天王など仏法を守る神(仏像の種類としては「天」のグループに属する元・異教の神)さまたちのこと。
円空で、心に自由をチャージする
円空仏には、広がりと自由がある。
のびのびとして、心が解放されていくような。
(ストレッチ?森林浴?のような)
こういう感覚を(確実に)味わえる仏像はそうそうなくて、毎度それを楽しみに円空仏のいるお寺や展示に足を運んでいると言ってもいいかもしれない。
そう、円空で自由をチャージしている、というか…
と書いていて思い出したのだけど、最近JR東海が円空でキャンペーンをしていて。これは、もう、人生単位のゲージ(?)で円空フル充電できそうすな(一ノ瀬ワタル氏風)。