純愛冥界ファンタジー(!)
ある日の外出中、ぽっかり空いた時間。映画でも観るかと、近くの映画館へ。タイミング良く上映している映画あり。
『赤い糸 輪廻のひみつ』
原題:月老 Till We Meet Again
原作・監督・脚本:ギデンズ・コー(九把刀)
出演:クー・チェンドン、ビビアン・ソン、ワン・ジン
2021年/台湾/128分/台湾映画社、台湾映画同好会『あの頃、君を追いかけた』(11)から10年
ギデンズ・コーが贈る 楽しくも胸を打つ純愛冥界ファンタジー
<INTRODUTION>
台湾稀代のヒットメーカー・ギデンズ・コーが本作で描くのは、台湾で一番身近な神様〈 月老 ユエラオ 〉と、輪廻転生をモチーフにした摩訶不思議な死後の世界だ。そこに、得意とする一途でピュアなラブストーリーを掛け合わせ、楽しくも胸を打つ、唯一無二の純愛冥界ファンタジーが誕生!全編に散りばめられたギデンズの日本サブカル愛や人間と犬の絆も見逃せない。
知識乏しく作品も監督も存じ上げずだったが、台湾の神様、冥界ファンタジー、犬、しかも復活上映…あたりの要素で興味のアンテナが立ち始め、鑑賞決定。
『幽玄道士』と同じダシの味がした!?
序盤、冥界の全体的な世界観やCG表現には魅せられつつも、ベタでコミカルで、もはや平成レトロな少年漫画的シーン、主人公のノリ、既視感のあるラブコメシーンに「これは乗れないかも…」と不安が過ったものの、最終的にはしっかり心を動かされ、そこそこ涙も流してしまった。素直な心で身を任すがよし。
子供の頃、夏休みにドラえもん映画を観た後の感動や爽快感、達成感とも似ている。
ぼんやりと、台湾映画の原体験としての『幽玄道士』も思い出す。あの世とこの世、ホラーとコメディ、アクション、青春。ベースの味わいが似ているというか、個人的には同じダシを感じた。
多ジャンルの糸で織られた、テクニカルで真摯な反物
『赤い糸 輪廻のひみつ』は、純愛を軸に様々なジャンルがミックスされている作品とされているらしく、たいへん賑々しい。ワチャワチャしい。
その一方、物語は破綻なく織られていて、途中広げられた伏線も見事に、しかも感動的に回収されている。脚本のうまさ、というの?
そして、賑々しくも(再)、心情の描き方は丁寧。もしくは、丁寧と思えるようなポイントが要領よく押さえられていて、感情の引っ掛かりなく、いつの間にか物語に引き込まれる。
例えば、ダークサイドに落ちた鬼頭成グイトウチェンの「500年の恨み、晴らさでおくべきか〜」な、わたしにとってはスーパー他人事設定でも、細かなエピソードやニュアンスが重ねられることで、感情の源泉と変遷の説得力が増す。腹落ち。
結果、気持ちよく観終えることができた。
勧めるとするならば…台湾や転生・冥界設定、犬映画を好物とする方々(大前提で吾輩は純愛が好きだという方も)、昨日よりもすこぅし明るい明日をお送りしたい(for自分)気分の方々に!
今後、配信やソフト化はないそうなので、気になる方はお近くの劇場に急がれたし。
上映館こちら最下部にあり↓
辿りつかない浄土、宇宙めく冥界ビジュアル
わたしは、仏像を始めとした仏教美術が好きで、その根本にある仏教の思想にも興味がある。民俗学的なテーマも好き。でも、まだまだ知らない。知っていきたい、というスタンス。その流れから、他の国の宗教や神様、死生観にも同じく興味がある。
作中には、冥界=死後の世界のイメージとして、宇宙めいた彼方に光る、いつまで経っても辿りつかない浄土と、彼の地に向かい、海のような闇を進む大陸(島or星かもしれない)が出てくる。
わたしにとって、このビジュアルが魅力的だった。
冥界自体に輪郭や形状があるのが新鮮に思えたのと、いつまで経っても、辿りつかない浄土っていうのが…どれだけ転生を重ねないといかんのか、解脱できぬのか、と。果てしなさがいい具合に可視化されているところに惹かれた。500年、裏切られた元仲間の転生を見続けてきた鬼頭成の果てしない絶望も、1万分の1くらいわかるってもんよ。
そして、黒い大陸のような冥界を統べるのは閻魔で、番人として牛頭(ごず)が侍る。
日本だと、牛頭天王は、「死の神(閻魔!)を倒す者」を意味する名を持つ元・ヒンドゥー教の神・大威徳明王(だいいとくみょうおう)だったり、日本書紀に出てきた、天界を追われたスサノオと同一視されたり、諸説ある武闘派の神様のイメージ。
鬼頭成のイメージとも大いに重なるところがあって、ここも面白かった。
※以下、ネタバレあり
因果応報の世界で愛を叫ぶ ※ネタバレあり
ほかにも、転生前に前世の記憶を消すために飲むドリンク(孟婆湯もうばとう)が自販機でガシャコンする牛乳瓶だったり、積むべき徳の数と転生できる生き物一覧の最上位が、人間でないのも良かった。スタッフ×動物のエンドロールが、とても幸せな仕上がりで好き。
ちなみに、涙がちょちょ切れちまったのは、主人公・孝綸シャオルンと愛犬・阿魯アルーの出会いのエピソード&リードのシーンと、あの時の蝉だった!のくだり。
揺れる木の葉の追憶映像の謎は、ここで回収されるんだという。ひたすら頭を下げて感謝の言葉を繰り返す、その瞬間は蝉でしかない孝綸に泣いてしまった。
個人的に、虫はGと蚊以外はなるべく殺生せず、ゆるやかに共存しているので、いつか何らかいいことが起きるかもしれない。主に、宅の猫が殺生するより先に蜘蛛を室内から逃す活動を続けているので、ひとまず今後も続行せんとす。
輪廻転生を信じているわけではないけれど、魂のゆくえと縁を想像すると、少し気持ちが楽になるような、いま共に暮らす生き物(人間でも猫でも犬でも)に「ありがとう」と「よろしく」を伝えたくなるような、明るい映画だった。
台湾、行きタイワン。